テレビなんてほとんどやらせ番組だ だからこそ面白い
♪ヒマラヤほどーの 消しゴムひとーつ 楽しいことを、たくさんしたーい
お世辞にもうまいとはいえない歌を無邪気に歌う宮崎あおいの姿を今でも思い出す人は少なくないだろう。
「あした なに着て、生きていく?」のコピーが秀逸な、もう今から6年前のearth music&ecologyのCMだ。
「あのね、宮崎あおいはわざと下手に歌わされてて、ちょっと足元がおぼつかない様子で、飛んできたボールを取り損ねるように指示されてるんだよ」
なんでって?
「”かわいい”宮崎あおいが着ているこの服が”かわいい”と世間の皆様に思ってもらい、買ってもらうために決まってるでしょ」
なんていうある大学教授の言葉に私の眠気も吹き飛ばされた。
今となってはそりゃーそーだろという話なんだが、大学1年の私は、この初回授業で教授が発した言葉にとにかく衝撃を受けたのだ。
それまでの私は、テレビに出てくる宮崎あおいは、ちょっと不器用で純粋な女の子だと思っていた。今もそうなら石原さとみは、あざとくて賢い小悪魔だと思っていただろうし、菜々緒を見るだけで、誰かを貶めようと企んでるんではないか、と勘ぐっていただろう。
あれはメディアが演出した彼女たちの仮の姿だ、なんてとちっとも認識せずにメディアを見たままに受け取り知ったかぶっていた私が、その授業で知ったことは、
”人気者はいつだってやらされている”
ということ。
広告の話に戻そう
”かわいい”宮崎あおいちゃんはもちろん、彼女に何をさせるかを必死で考えた広告の裏に潜む人たちのおかげで、earth music&ecologyの売り上げはうなぎ登り。
現在でも多くの若者に知られるアパレルブランドになった。
(私的)衝撃発言を発した後、恩師は、「なぜ消費者は、この宮崎あおいを”かわいい”と思わされたのか」という要素をつらつらと述べ始めた。
「まず、宮崎あおいはキティーちゃんとか、ゆるキャラに似てる。それは顔のパーツが・・・」
「欧米人と比べても明らかだが、日本男児は守りたくなるような女の子が好きで・・・」
「かわいさの中に、媚びないボーイッシュさを感じさせ、女性好感度を得るために・・・」
結果、earth music&echologyのCMには”かわいい”宮崎あおい像が意図的に見事に作り上げられていた。
宮崎あおい CM earth music&ecology 野球篇
CMは面白い。作り手が、消費者を動かすために、あの手この手と仕掛けてくる。
時の人や楽曲を起用する、「そうなんだよなぁ」と共感させるようなシーンやフレーズを取り入れ、時には消費者の気を引くために世間をチクリと皮肉ってみたりもする。
だからこそCMを見ると、その企業の意図と世の中の風潮が垣間見える。
そんなことに40年以上も前に目をつけ、広告批評を執筆してきた人がいる。
故天野祐吉さんだ。
彼の発言には、メディアから捉えられる世の中を批評しながら、我々が忘れてはいけないと思わされるような言葉がヒシヒシと伝わる。
アナログな考えを持つ私は、天野さんの綴ってきた言葉を、ただただ大切に、未来に持っていきたい。